仲良く、ね?


「ん。あれ、中尉?」

久しぶりにセントラルへやって来たエドワードとアルフォンスは、街に出かけた先で知っている顔を見つけた。
とっさにエドワードが声をかけた。

「あら。エドワード君、アルフォンス君、こんにちは」
「ちわっ」
「こんにちは」
「今日は休み?」

ホークアイが軍服ではなく、私服を着て買い物をしていることにエドワードが気づく。

「午後の半日だけね。最近は忙しくて買い物にも行けてなかったから、有給を使って」

とホークアイは両手にある紙袋を持ち上げて2人に見せた。

「沢山ありますね、持ちましょうか?」
「ありがとう、アルフォンス君。でもそんなに柔じゃないのよ」
「ははっ、頼もしー」
「そういえば」

思い出したようにアルフォンスが口を開く。

「そんな頼もしい中尉がいなくて大丈夫なんですか?」
「何が、かしら?」
「大佐とかが、だろ?」

ずはりとエドワードが言うと、アルフォンスが頷いた。

「大佐なら多分大丈夫よ」

“大佐とか”が“大佐が”という意味だと受け取ったのか、ホークアイはロイのことだけを話した。確かにエドワードとアルフォンスはロイのことを言ったつもりだったので、はずれてはいない、むしろ当たっている。

「今日は夜に予定でも入れているらしくてね」

ほんの一瞬だけホークアイはエドワードのほうを見る。目のあったエドワードはどきっとさせられる。

「よっぽど会いたい相手なのかしら、“今日は絶対に定時で帰る”っていう雰囲気で仕事をしていたわ」

みるみるうちにエドワードは顔を紅くする。分かりやすいエドワードの表情は、アルフォンスとホークアイをほのぼのとさせる。

「ところでエドワード君」
「なっ何、中尉?」

紅くなった顔を隠すためにエドワードは俯いていたが、ホークアイの呼びかけに答えるためひきつった笑顔をしながら顔を上げた。
ホークアイはそれとは比べ物にならないほどの完璧な、言ってしまえば何かを企んでいるような笑みを浮かべている。アルフォンスはほんの少しだけ勘づく。

「大佐を驚かせてみない?」
「?」





司令室の時計が定時の時刻を告げた。途端にロイは身の回りを片付け始める。

「あ、そっか。今日大佐は定時帰りっしたね」

煙草を口から離してハボックが、問いかけるわけでも話しかけるわけでもなく、ただ単に何となくそう言った。
しかし律儀にロイは答える。と、いうより答えたいのだ。

「そうだ久々に会うのだからな、遅れるわけにはいかないだろう」
「だから一度もサボらなかったんですね」

今更なことにフュリーが気づく。
フュリー曹長、遅いよ。と声をかけたファルマンに、ハボックとブレダが無言で頷いた。
つまりフュリー以外の部下3人はしっかり気づいていたのだ。

「しっかし中尉も有給取るタイミング、はかってるよな」
「ま、中尉いないと大佐仕事出来ないし」
「それもそうだ」
「“出来ない”のではない、“しない”のだ」

好き勝手に言っていたハボックとブレダに、しかめっ面をしたロイが反論する。

「それに中尉がいてもいなくともするときはする、今日のようにな」

今日のことはまた別だろう、という部下全員の突っ込みは、得意気に言った上司のため心内に留めておく。

「いかん、時間が!それでは私は帰る、仕事はサボるなよ」
「いつもの自分に言ってくらさい」
「その心配は無用っすよ」
「くれぐれもお気をつけて」
「お疲れ様でした」

口々に部下が挨拶を返す。
慌てて飛び出していったロイに、嫌な予感がしてならないのは部下全員だった。
この予感が当たってしまうのだから、実にロイはついていない。



司令部を出てから約15過ぎ、待ち合わせの場所にロイは少し遅れて着いた。が、いつも赤い目立つコート着た少年の姿が見つからない。立ち止まって辺りをキョロキョロとして探してみたが、やはり見つからない。
暫くはじっとその場で待っていたのだが、何かあったのではないだろうかという不安がロイの心に表れ始めた。そのとき、誰かがロイにぶつかった。白いレースのワンピースを着ているのが見えた。

「ああ、すまない」

ぶつかってしまったことを悪いとは思いつつ、今はそれどころではない、赤い目立つコートの、エドワードを探さなければならない。

「あ。大丈夫、…です」

付け足したような語尾が気になってロイはぶつかった相手をみた。
そして目を疑う。
そっくりなのだ。
誰が?ぶつかった相手が。
誰に?エドワードに、だ。
思わず目を逸らしてしまったが、まさかと思いまたぶつかった相手を見る。

「? 何か?」

じっと見られて不信に思ったのか相手はロイにそう言って首を傾げた。

「あ、いや、すまない」

足元は膝上まであるブーツ、花柄のストールを首に巻き、ジーンズのジャケットに白いワンピースを合わせた服装はイマドキの女の子である。そんな服装をしていなければロイは目の前の少女をエドワードだと思ったくらい似ている。
確かに少し瞳がエドワードより大めだがメイクだろう、メイクをしていてもよく似ている。

「怪我はないかな?」
「はい、大丈夫です」

声も似ていないか?
顔も、背丈も、声まで似ている。
もうここまで似てくるとエドワードではないのかとロイは思うのだが、やはりあのエドワードが女装、ワンピースを着るとはどうしても思えない。

「あの」

1人悶々と悩んでいると声をかけられた、ぶつかった少女に。

「何かな?」
「いや、その…」

起こったような、悲しそうな表情をしながら、ロイを見上げる。

「気づかないのか?」

何に、なのかが分からないロイはその通りに聞き返す。

「何にだ?」

その瞬間少女の顔は大きく歪んだ、泣きそうになっているのを堪えているようだ。

「もういい!ばか!」
「ばっ!?」

それだけロイに言うと少女はどこかへと駆けていった。
初対面の人に“ばか”呼ばわりされる筋合いはないので、引き留めに行こうかとしたが、エドワードを待っていることを思いだしその場に留まった。
エドワードが来ない悲しさと、先ほどの少女は何だったのかだけが今のロイの胸にある。

30分ほど経ったときロイの前に人が現れた。
残念ながらエドワードはない。

「ホークアイ中尉か、何故ここに?まさか…鋼のに何かあったのか?」
「いいえ、大佐が思ってらっしゃるようなことは何も」
「そうか」

ホークアイのその言葉を聞き、ロイは安堵のため息をもらす。

「ただ」
「ただ?」

バツの悪そうな表情で言いにくそうに続けた。

「まずいことになってます」
「?」



「ねえ兄さん、話してくれなきゃ分からないんだけど」
「いいって!」
「よくない!」

アルフォンスはエドワードに向かって声を荒げる。

「やけに早く帰ってきて、泣きそうな表情してれば気になるだろ」
「……」
「大佐と何かあったの?」
「…別に」

ああ、もう。
アルフォンスはため息が出そうになる。
分かりやすい反応だ、何かあったのだと言っている。
帰ってきたときから薄々気づいていたが、どうやら大佐と何かあったらしい。

「教えてくれないの?」

エドワードからの反応はない。
こうなれば当人たちでしか解決出来ないであろう、ホークアイがロイを連れてくるまでどうしようもない。
エドワードの機嫌は最悪だと覚ったアルフォンスは、仕方なくこの話題からいったん離れることにする。

「そういえば兄さん、着替えないの?」
「ああ…。そうだな」

今のエドワードはいつも着ている服ではなく、ジーンズのジャケットに白いレースのワンピースを着ている。
そう、待ち合わせ場所でロイとぶつかった少女はエドワードだったのだ。

「大佐を驚かせてみない?」
というホークアイの言葉に乗ってエドワードはロイを驚かせることにした。
驚かせる、といってもさほど大袈裟なことではない。ただエドワードが女装をして待ち合わせ場所に行く、というシンプルなもの、だったのだが、どう話がこじれたのかエドワードはロイに一言罵声を浴びせて今晩アルフォンスと泊まる宿に帰ってきた。

エドワードがいつもの服装に着替え終わったとき、部屋のベルが鳴った。

「僕が出るよ」
「おう」

きっとホークアイだろうと思ってドアを開けると、やはりホークアイがいた、その隣にはロイも。

「すみません」
「いや、アルフォンスが謝ることはないさ。鋼のはいるかな?」
「ええ、奥に。どうぞ入って下さい」
「では」

ドアを大きく開けてアルフォンスがロイを中に入れる。そのあとでホークアイも中に入った。

「ごめんなさいね、アルフォンス君」

私が変な提案して。そんな言葉がこの後には続くが、敢えてホークアイは何も続けない。

「いいえ、これで大佐がもっと兄さんのことを大事に扱うようにな
ればそれで充分です」
ホークアイの顔が朗らかになったところで会話は止まり、肝心の2人の様子を窺いに行く。

「鋼の?」
「アンタに用事はないんだけど」

いつもより低いその声と口調から機嫌が悪いと瞬間的に気づく。まあ、そうでなければわざわざロイが来ることはないのだが。

「私は用があるんだ」

エドワードがうつ向けに寝そべっているソファに近寄り、ロイはその側にしゃがんだ。

「鋼の」

エドワードからの反応はない。それでもロイは話を続ける。

「今日の待ち合わせ場所でぶつかったのは、君だったようだね」

ぴくっと、クッションを掴むエドワードの手が動いた。

「気づかなくてすまなかった」
「…恋人なら、気づくだろ」

怨めしそうにエドワードが呟いた。
どうやらロイがぶつかった相手をエドワードだと気づかなかったことに対して怒っている、いや、この場合は拗ねているといったほうが的確だ。

「言い訳のように聞こえるかもしれないが、まさか君がワンピースを着るとは夢にも思っていなかったんだよ。よく似合っていたよ」

のそりとエドワードがソファからやっと頭を上げて顔をロイに見せた。

「本当か?」
「ああ。でも」

そっとエドワードの頬に手を添えた。払われないのでそのまま話す。

「そのままの君が一番いい。着飾らなくとも鋼のには変わりないのだから」

ね?
ロイが優しく話かけるた。エドワードは顔をしかめて何も喋らない、これは怒っているのではなく反省しているのだ。

「あの、さ」

その証拠に、エドワードはポツリと口を開く。

「悪かった、理不尽に怒鳴って…」

話せばちゃんと素直になる。それは愛しい気持ちこの上ない。
にこっと笑みを浮かべたロイがエドワードに尋ねる。

「明日の夜、空いているかい?」

小さく頷いたエドワードの額に唇を寄せる。
真っ赤になったエドワードの耳元で明日の約束をした。

「大佐」

仲直りも出来たのでロイは惜しみつつも兄弟の泊まる部屋を出た、ところでアルフォンスに声をかけられた。

「どうかしたのか?」
「今回は兄さんが勝手に拗ねちゃってたみたいで。すみません」

いやいや、とロイが手を横に振り否定しようとしたが、それを阻止するようにアルフォンスが言葉を被せた。

「ですが、大佐が兄さんを困らせるようなことがあれば」

無表情の鎧のはずなのに威圧感を感じるのは、残念ながらロイの気のせいではない。

「僕、許しませんから」
「あ、ああ」

明るいアルフォンスの口調が逆に怖い。

「それじゃ、おやすみなさい」

部屋のドアがしまって廊下に1人なったロイは、思わず怯みつつもそれだけは絶対にしないと心に決めた。




あとがき

ありがとぅ!!
めちゃんこ嬉しいです!!

アルを黒くしてって言ったことしか覚えてない.....
ちゃんと黒くしてくれてありがとう←笑

ほんとにサイトの開設ではお世話になりましたm(_ _)m
がんばります!!
これからも宜しくお願いします!!!!