- 心から思う人
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「は、鋼のっ!」
冷や汗を垂らしながらとてつもなく焦っているであろうこの男。
アメトリス国軍大佐
東方司令部司令官
国家錬金術師で二つ名は「焔」
などなど華々しい肩書きを持つ、エリート街道まっしぐらな将来有望のお買い得男。
女性隊員から軍のお偉いさんの娘さんから花屋で評判の看板娘まで彼に熱い視線を向ける。
流した浮名は数知れず、彼を思い流した乙女の涙と彼のせいで泣かされた男は数え切れない。
色々な意味でそれはそれは有名な彼の名はロイ・マスタング
女好きでサボりだともっぱらの噂の彼はその実、軍の内部に食い込み今まで溜まりに溜まった膿を取り出さんとしている。
完璧に形作られたその笑顔の中で静かにその闘志を燃やしているのだ。
と、まぁこれだけ聞いたらなんともまぁすごい男がいたもんだ、と思うだろう。
俺もそう思っていた。実際ちょっとは憧れていたのだ。今まで周りにいなかった大人の男というものに...
だというのに...
だったというのに...
しかし!悲しんでばかりもいられない!
なぜならこの将来有望男は俺の恋人なのだから。
あっ、別に悲しいに意味はないぞ。ちょっとした比喩だ、比喩。
それでだ、なんだってわざわざ男同士でしかも14も歳が離れているこいつと何故恋人になったかって?
それは色とりどりの花たちがその美しさを競いあう様に咲き誇る、暖かい春の日。
暖かな空気に誘われておかしな病気にでもかかってしまったのだろうか。
この無能男は...
「鋼の、君が好きだ!」
こいつ、踏みつぶしてやろうか。
ある日こいつが急に俺を好きだの愛しているだのほざいてきた。
最初はただの嫌がらせだと思って馬鹿にするな!と怒っていたりしたがいつまでたっても止めない。
ほんといい加減にしろよ。俺はあんたのお遊びに付き合ってるほど暇じゃないんだ。
いやがらせか何だか知らないが、面白くもないからやめてくれ。
ほら、見てみろよ。ホークアイ中尉がこっち見てるから。なんか冷気すごいから。やめとけって、ハチの巣にされるぞ。
「嫌がらせなんかじゃないよ。もちろん、遊びなんかでもない。私は本気だよ、本気で君を愛しているんだ。鋼の」
熱いぐらいに見つめられ、ロイは俺の手を取り指先に口付けようとする。
唇が当たらないうちにさっさと手を引こうとするが強めに握られていて叶わなかった。
気障な野郎だな。
やっと取り戻した自分の手の甲をごしごしとコートで拭く。
指先から唇を滑らせて甲にまで口づけやがった。
ほんっとに気障な野郎だな、こいつは。
口づける様がなんとも似合っていた。
大丈夫か、こいつ。
こんな奴が上司だなんて中慰達が気の毒だ。
怒りを通りこして呆れてくる。あ、頭が痛くなってきた。
まったく俺が何したんだ。
春の陽気にやられて頭がおかしくなったのか?
「おかしくなんてなってないさ。もちろん私達が同性同士だということはわかっているだが、その上で君を愛しているんだ。信じてほしい」
真剣な瞳。
一つの曇りいもない一途な想いが流れ込む。
溢れる泉のように。降り注ぐ光のように。
苦しいくらいに向けられるその想いで窒息してしまいそうだ。
本気で想ってくれているのだ、この俺を。
だが、何故?なぜ俺なんだ。
俺なんかじゃなくても相手ならいくらでもいるだろうに。
「信じてもらえて嬉しいよ鋼の」
嬉しそうに笑ったんだ。
とても幸せそうで、暖かくて、柔らかい空気に包まれたようだった。
「私は君を愛しているよ。君と同姓であるとか、年が親子ほども離れているとか、もちろん考えたんだ。でも、それでも君を愛しているんだ。君だけなんだ。」
そっと手を握ってくる。優しく慈しむようになでられると、そこから何か流れてくるようだった。
それは腕を通って、胸の真ん中あたりにじんわりと沁みこんでくるようだった。
なんとも心地よい感覚に身を任せる。
「鋼の?聞いていたかい?」
あまりの心地よさに、どこかへ思考を飛ばしてしまっていたようだ。
手を握られただけであったゆうのに、一体どういうことだろうか。
自分はどうかしてしまったのか?
慣れない感覚が全身を満たして、いつもの自分を見失わせる。
「鋼の、私は君のことを本気で愛している。しかし、君は信じてくれたようだったけれど、やはり急にこんなことを言われればそんなに簡単には信じられないだろうし、反応にも困るだろう。返事は何時でもいいんだ。私は君の夢がかなうのを応援したいんだ。君の重荷にはなりたくはない」
大佐はそう言うと笑って、俺の頭をゆっくりと撫でた。
俺がその後、答えられるはずもなくて、そのまま返事もせず旅に出てしまった。
逃げたんだと思う。
自分の気持ちを知りたかったけれど俺はそれを知る術を知らなかったんだ。
旅から帰って、少しの不安を持ちながら司令部に報告しに行くと、おかえりと迎えてくれる優しい人たち。暖かい、あの人。
意識しないうちにただいまと返していた。
ああ、ここはもう俺の帰る場所で、あの人はもう俺になくてはならないものだったのだ。
初めてのこの感情をなんと呼べばいいのだろうか。
暖かくて、幸せで、甘酸っぱい気持ちでいっぱいになったこの心を人は何と呼ぶのだろうか。
分からなかったから、感じたように伝えた。
大佐なら知っていると思ったんだ。
そしたら俺の言葉を聞きながらどんどん真っ赤になっていくんだ。
手で顔を覆ってしまって、どうしたのかと思えば大佐はそっと教えてくれた。
それは"好き"というものだよ
"好き"
すっぽりと心にはまった。足りなかったピースが埋まったんだ。
そう、これが、好きという気持ち...
今まで、感じなかった新しい気持ち。
そっか、俺、大佐のこと好きだったんだ。
言葉に出して伝えた時の大佐のあのぽかんとした表情。
その後のとても嬉しそうな笑顔は。俺は一生忘れないと思う。
私も大概のことは言ったけれど、こんなにも熱烈な愛の告白を受けるとは思わなかったよ。
――それで最初に戻るけど、なんで大佐が焦ってるかっていうと...
「ロイ?どうしたの?」
ねっとりとした甘く媚るような声。
こいつは今、長い金髪が美しいグラマラスな美女を腕に絡ませている。
「は、鋼の!これはだね、けっして浮気何かじゃなくてだね―――」
「おーい、大佐ー。ちゃんと仕事しろよなぁ、また中慰に怒られちまうぞ。俺、司令部行ってっからさっさと来いよ。んじゃ、またな」
弁明しようとする大佐の言葉をさえぎり、背を向けてさっさとその場から退散する。
「鋼の!」
大佐の声が遠くから聞こえた。
「ちわー」
俺が司令部に着くと、慌ただしく動いていた司令部の人たちがピタリと動き止める。
ギギギと音がするのではないかという様に首をこちらに向けてきた。
「お、おう、大将!良く来たな」
「久しぶりね、エドワードくん」
ハボック少慰もホークアイ中慰も顔色が悪い。ったく、皆は心配性だなぁ。
「...大丈夫だよ。ちゃんとわかってる。どーせまた将軍とかからの見合いで、あんなことになったんだろ」
「え、知って...?」
「な、なんだよその顔!?俺だってそれくらいは分かってるよ。そんなことで怒るわけないだろ」
二人とも心底驚いた顔をしていたけれど、ふっと溜息をついた。
――――分かっているんだ、分かっている...
少しだけ悲しそうな顔をしたのを、軍人たちは気づかないふりをした。
――――軍人であるには必要なことなのだ。分かっていたことではないか...
「あれっ?そういえばアルはどうしたんだ?」
「ああ、アルなら今泊まってる宿に子猫がいてさ。一緒に遊んでるよ」
あぁそれで、とみんなが納得する。
大きな鎧に似合わない高い声をした彼の弟はかわいらしいものが好きだった。
嬉しそうに鎧をガシャガシャ言わせながら庭に出て行った弟を思い出していると――
ダダダダッ
バターンッ
「っエドワード!!!」
!!!???
ガシッバタンッ
ドアを壊さんばかりの勢いで入って来た人物に驚いている間に、エドワードは抱きかかえられて奥の司令室に拐われてしまった。
「....あーあ、あと2時間は無理っすね」
「いえ、今日はもう仕事にならないでしょう」
「....いいんすか?」
「しかたないわ。エドワードくんの為ですもの」
「そっすねー。んじゃ明日っすかね」
「そうね」
ガシャガシャ、ガチャン
カチッ
にこやかに話しながら各自、自分の得意な武器を手に持って手入れをしている。
そう、ここの軍人達は皆、エドワード達が大切なのだ。
大事な弟分に悲しい顔をさせた人物は、例え上官であろうと、彼の恋人であろうと許されはしない。
彼らに悲しい顔をさせれば地獄を見るのだ....
その頃扉の向こう側では大の大人が子供に謝り倒していた。
「すまない!エドワード!彼女とは何もないんだ!無理矢理見合いをさせられて、それで!―――っ!?」
ちゅっ
大佐の言葉を遮るように軽く口付けを送る。
「わかってるよ、大佐」
額をくっつけてゆっくりと言ってやるとやっと落ち着いたようで
「本当に?私は浮気をした訳ではないけれど、君に殴られるのも覚悟していたんだよ?」
不安そうに涙目をした大佐が尋ねてくる。
大の大人が自分に対して随分必死で何だか可愛い。
可愛いと思ってしまう自分はもう末期なのかもしれない。
そう思うと心の隅で苦笑する。
「そんなに俺がお前を信用してないって思うわけ?俺はお前を信じてるから」
大丈夫だ、そう言ってやれば、やっとわかったみたいで彼はよかったと呟いて笑った。
「ありがとう私を信じてくれて、本当に嬉しい。でも、すまない...君には悲しい顔をさせてしまったね」
「.......」
「君のことだから、悲しくても我慢してくれたんだね。ごめん、ありがとう」
大佐は苦笑いを溢している。
「...俺、そんなに分かりやすかった?」
尋ねる声が震えてしまった。
ここならばばれるも何も隠してもいないのだから平気だが、もし、ここではない場所でばれるようなことがあっては...
不安で肩がふるえる。
「大丈夫だよ、安心して。中央の頭の固い連中なんかにばれるわけがない」
大佐は俺を安心させるように頭を抱き寄せ、て背中をさすりながら囁やいてくれる。
「そか、よかった..」
俺はばれてもかまわない。
でもこの男は上を目指している。
俺との関係のせいなんかで潰れていい男じゃない。
足手まといになんて、重荷になんて、なりたくない。
「私には君が必要だ。君がいなきゃ私は何も出来ないんだから。私は君を手放す気はないよ」
「っでも!!あんたはこんなところで終わっちゃいけないんだ!ばれたら足元すくわれちまう!やっぱり別れて―――っ!?」
噛みつくようなキス。
その後の言葉を言わせないかのように
「...んっ.......―――っふ.....」
離れるときは正反対にゆっくりと優しかった。
「言わないで。君からそんなこと言われたら、私は生きていけない...」
とても辛そうな大佐の表情が目に写る。
「っごめん!そんな顔させるために、言ったんじゃないのに...」
大佐の為を思うのに、なのに大佐を悲しい顔にさせてしまう。
こんなことがしたかったわけではない。
「ごめん」
うつ向いて謝ると、大きな手が頭に乗せられる。
「君は私のことを心配しすぎる。私のことを思ってくれるなら、一緒に居てくれないかい?」
「大佐...」
大佐は、ロイは優しすぎる。
「俺と一緒にいたらあんたに迷惑かけるぞ」
「迷惑なんかじゃないさ」
「俺は男だし子供だぞ」
「知ってる。それでも君が好きだ。」
「将来、別れたいって思っても知らないぞ」
「思わないし、一生離さない。愛しているよ、エド」
うん。もう大丈夫だ。
俺はこいつを信じてる。
「...俺も。俺も、愛してるよ。信じてる。......ロイ」
優しいキスをした。
何度も何度も、繰り返し。
この誓いを、想いを、刻み込むように。
「じゃあ、行ってきます」
俺はアルと一緒にまた旅に出る。
夢をかなえるために。
そしてまた帰って来るんだ。
皆がいるこの場所へ。
大佐の、ロイのいるこの場所へと......
Fin
後日執務室に悲鳴が響き渡った。
その後一週間某大佐を見た者はいないとか...
あとがき
祝!初小説!!
初めて書いた小説です
友人にあげたのをなおしました
それにしても恥ずかしいな...
軽く羞恥で死ねそう←
とりあえず甘甘で攻めてみました
可愛い兄さんと、へたれ増田が書きたかったのです