同窓会2



並盛中学同窓会と書かれた紙が貼ってある扉に、美しく着飾った人々が次々と入っていく。

最近建てられたばかりのこのホテルは、充実した設備と行き届いたサービスが話題になって、芸能人やセレブと呼ばれるような有名人にも利用されている。
その最上階にあるホールを一つ貸し切って並盛中同窓会が行われていた。
いくつかの学年と合同して行っているこの同窓会には様々な人物が集まっていた。
このホテルの最上階というとてつもなくいい部屋を使うことができるのもここにコネのある人物が口添えをしてくれたからである。


当時憧れていた先輩、好きだったクラスメイトなど甘酸っぱい思いを抱き、合わない間に綺麗になった者に心を躍らせ、思いもよらず出世した者に瞳を光らせる。
などなど、様々な思いが渦巻く中ひときわ人の目を集める二人の女性がいた。
笹川京子と黒川花である。
大人になってもかわいらしいという言葉が似合う京子と、大人の女性としての艶やかさを持つ黒川は、周りの男の目を一身に集めていた。



「沢田たち、遅いわね」

「30分位遅れるって言ってたから」

「そう」


来てくれると言ってくれたが、彼はとても忙しい身だ。
無理をしなくてもいいと言った反面、来てほしい、顔を見たいと思う自分がいる。


「無理、してないといいけど.....」






ホテルのロータリーに一台の車が滑るように入ってきた。
漆黒のボディは磨き抜かれ艶を放っている。
誰もが知るような有名なエンブレムをつけたその車の助手席から、光を受けて輝く銀の髪を持つ、容姿の整った男が降りてきた。
後部座席のドアの回り、膝をついて指紋一つなく磨かれたドアノブに手を掛ける。
音を立てずに、慎重に、細心の注意をなされた動作でドアが開けられる。
一連の様子から彼が中の人物に絶対な忠誠を誓っていることがわかる。

開かれたドアから一人の青年が出てくる。
ふわふわと撥ねる茶色とも金色ともとれない色合いの髪は、襟足だけ長くのばされている。
小さな顔に、吸い込まれそうなほどに透き通った大きな瞳は美しい琥珀色をしている。

一瞬で周りの視線を集めた彼はまるで気にせず優雅にホテルへと入っていく。
その後に銀の髪の男と、爽やかなスポーツマンを思わせる短い黒髪をした銀髪の男には及ばないまでもこちらも整った容姿をした男がついて入って行った。

彼らを降ろした車が出て行ったあともしばらくの間その光景を見た者は誰一人動くことができなかった。





観音開きの会場の扉が勢いよく開けられる。
バタンッと音のするほど開けられた扉にようやく彼らの来訪を知る。
ざわついていた会場が一転し水を打ったように静かになる。

最初に入ってきたのは、銀の髪をして、シルバーアクセサリーをつけた派手な美しさを纏った男であった。
中学の時から整った造作をしており女子生徒に人気があったが年を重ねたその美貌は凄みさえ感じる。

それに続いて入ってきたのは長身のスポーツマンのような爽やかな雰囲気を持った短い黒髪の男であった。
いつもクラスの中心で人好きのする笑みと朗らかな性格でこちらも女子に人気があった。

そんな中学の女子の人気を二分していた二人は重ねた年月の分だけの魅力を持ち合わせていた。

その二人に挟まれるようにしてもう一人入ってくる人物がいた。
ふわふわと撥ねる金茶の髪は襟足だけのばされ、微笑を湛えたその唇は紅を差したように淡く色づいている。
琥珀を溶かしたような深みのある色合いをいた瞳は、吸い込まれそうなほどに透き通り、何もかもさらけ出しているような感覚に陥る。

突然入ってきた誰ともわからぬ随分と煌びやかな集団に戸惑っていた面々に救いの手が差し伸べられる。
この声のおかげで彼が誰だかは分かったが、救いになったかどうかは考えものだろう。



「ツナ君!こっちだよ」

「京子ちゃん。黒川も、久しぶりだね」


中学時代のマドンナが親しげに呼ぶその名前は昔勉強もダメ、運動もダメで随分と馬鹿にしたあだ名が付けられていた彼らしい。
いつも気弱そうな笑みを浮かべて、存在感の薄い人物であった。
いつの間にか煌びやかな連中が彼の周りを囲み始めたが彼だけは浮いているように見えていた。


そんな思い出しかないあのダメツナがこのキラキラしい美青年だというのか!?
衝撃の事実に会場にいる誰もかれもが呆然としている中、二人は気づいているのかいないのか呑気に世間話を始める。

「ツナ君、来れてよかった」

「うん、死ぬ気で頑張ったんだよ。京子ちゃん元気だった?」

「すっごく元気だよ。ツナ君こそ、元気だった?怪我とかしてない?」

「大丈夫だよ」

ほのぼのとした空気を醸し出しながら話している二人にやっと衝撃から抜け出せた黒川が大きく息を吐く。
気づかないうちに息を止めてしまっていたらしい。

「はぁー....沢田、あんた変わったわねぇ」

しみじみとそう感じる。
あの勉強も運動もダメダメだった、あの、ダメツナがねぇ...
随分と様変わりしてしまった元クラスメートをじろじろと眺め観察する。
指先まで洗礼された動作、分からないように自然にリードするその姿はあの頃の彼との接点を何一つ思い起こさせることはない。
変わらないのはただ一つ、優しく包み込むような安心できるその笑顔だけのように思えた。

「そっかなぁ?俺は今でもダメダメだよ?みんなにはいっつも助けてもらってばっかりだし....」

しょんぼりとする姿はなんとも庇護欲を誘いついつい助けたくなってくる。
ああ、このような姿もあの頃と変わっていない。
また一つ変わっていないところを見つけなぜだかほっとした。
見たことのない彼の姿は美しいと思いはすれもどこか恐怖と不安を感じさせる。

「そんなことはありません!10代目は立派にお仕事をなさっています!」

「そうそう、俺たちはちょびーっとだけサポートしてるだけなのな」

頭を下げて悲しんでしまった綱吉を二人は慌てて慰める。
中学の頃からこの二人は彼を特別視していた。
彼以外、誰一人として寄せ付けなかった獄寺はその盲目っぷり、崇拝ぶりは周りから見ればあらか様であったし。
人付き合いのよいように見えて、以外に心の奥は人に見せない山本も彼の前では無邪気に心からの信頼と愛情の笑顔を向けていた。

「ありがとう、二人とも」

花が綻ぶような笑顔を向けられた。
動揺を悟られないよう、きゅーんと締め付けられた胸をさりげなく抑える。
この笑顔のためなら敵ファミリーの一つや二つぐらい軽く殲滅出来そうな気がする。
キラキラビーム(命名・リボーン)に当てられた二人は結構本気でそんなことを考えていた。




昔の思い出、会わなかった間の生活を話し、酒もほどほどに入った。
表面上は和やかに進んでいった同窓会であったが、突然、携帯電話の電子音が鳴り響いた。
無言で携帯を取り出したのは綱吉であった。
ピンと空気が張り詰める。
無言のまま携帯を耳に当てる綱吉に獄寺と山本が窺うような視線を向ける。

『何があった?』

開いた口から流れ出すのは流暢な外国の言葉。
その言葉がイタリア語であると気づけたものはこの中に何人いただろうか。
本場の人間でさえ完璧だと思わざるを得ない美しい発音だと誰が気づけただろうか。
死ぬほどしごかれた家庭教師さまのお手柄だ。

『気づかれた?この場所まで嗅ぎつけられたのか?』

『いえ、まだそこまでは気づかれていないと思われます。しかし時間の問題かと...』

『そうか...』

『申し訳ありません。綱吉様』

『お前のせいじゃないよ。連絡ありがとう、すぐにここを出るよ』

『会場への根回しはこちらでしておきます』

『ああ、頼む』


通話を終えた綱吉に獄寺と山本が駆け寄る。

「なんだったんだ?」

「日本のやつらに、ここにいることがばれた。早急にここを出よう」

「日本のやつらならばあまり問題ないのでは?」

「そいつらはボンゴレの名をあまり知らないやつららしい。そうなると、ここにいる皆に危険が及ぶかもしれない」

「そうゆうことですか」

「なら、すぐに出ようぜ」

小声で話をまとめるとすぐさま会場から出るため足早に扉へと向かう。

「ツナ君、何か、あったの?」

問題が起きたのであろう。
彼らは、自分の知らない、分からない、入っていってはいけない世界にいるのだ。 少し緊張したような顔の彼。
振り向き、少し困ったような顔をしてごめんねと声には出さずに表情で謝った。
かまわない、というように首を振ればそっと微笑んでくれる。
もう、会えなくなってしまうのか。 なんと短い間だったのだろう。 わがままだけれど寂しいと、ここにいてと言ってしまいそうだった。 だがけして言わない。彼が困ってしまうと分かっているから。 重荷にだけはなりたくないから、心の奥に雁字搦めにしてその言葉を押し込め、堅く堅く蓋をする。何かの拍子に開いてしまうことがないように。

「なんだよぉー、もう帰るのかー?」

酔っ払っているのだろう、赤い顔をした男が話しかけてくる。

「うん、ごめんね。急用ができたんだ」

「10代目、お急ぎください」

「ああ」

絡んでくるものを適当にあしらい彼らは来たときと同じように唐突に帰って行った。

「何?なんであいつらあんなに急いでたの?」

「わかんないけど、何かあったんだと思うよ」

「何それ?」

訳のわからなさそうな親友にさあ、とだけ返して見えなくなってしまった彼の背中を心の中で追う。
自分たちには踏み込んではいけない世界。
随分と遠くなってしまった初恋の彼の背中はとても大きくなったようだった。
あの頃から大きな広い心を持っていたけれど、それを背負えるくらいに成長した彼がまぶしく感じられた。





ホテルのロータリーで車に乗り込もうとしたとき何人かのガラの悪い連中に周りを囲まれる。

「ちょーっと、話があるんだけどよぅ」

「兄貴がお前に用があるんだとよ」

「着いてきてもらおうか?」

「別に、俺にはないですよ?着いて行く義務もないし」

微笑みながらそう言えばいとも簡単に逆上してくる。
レベルの低い奴らだ。
二人がかばう様に前に出ようとするのを抑える。

「なんだと?てめぇなめてんのか」

「あんま調子のってんじゃねえぞ!」

「生意気言ってないでさっさときやがれ」

生意気言ってるも何もないだろうに。
勝手に言いたいだけだけ言ってしまって、自分たちがどれほど好き勝手に言っているか分からないのだろうか。
小さくため息が出る。ああ、勿体ないこんなやつらのせいでそれでなくとも少ない幸せが逃げてしまったではないか。
なんてことだ。

着いてくるものと思っているのかさっさと歩きだした男たちに聞こえないよう獄寺が小声で話しかけてくる。

「果たしますか?10代目」

「いや、このまま着いて行こう。なんだか面白いことになりそうだ」

血の中に眠る己の力が何かあると教えてくる。
少しめんどくさい気もするが、こいつらのせいでせっかくの休暇がダメになってしまったのだ。
暇つぶしくらいにはなってもらわないと割に合わない。
そう考えながらうっそりと笑うその顔は闇の帝王のそれであった。

馬鹿なやつらだ。
彼を自分達でどうにかできるとでも思っているのだろうか。
大抵の輩は柔らかい物腰とその笑顔で騙されるが、彼がその内に飼っているのは狩られるような草食動物ではなく、闇の頂上に君臨する百獣の王であるというのに...

すっと細められた琥珀の瞳が獲物を捕えた獣のように光を放った。



せいぜい楽しませてくれよ?




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