- 同窓会3
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男たちに連れて来られたのは無数に立ち並ぶビルのうちの一つ。
ひときわ綺麗にしてあるとかびっくりするほどボロボロだとかはないが、回りの環境からすればいかにもといった風の薄汚れた3階建てのビルであった。
中に入れば外見とは打って変わってきらびやかであった。
こうも予想通りだと笑いだすどころか呆れてくる。
今どきこんなさも何か怪しいことしてますよな空気をだしていて大丈夫なのか?
もうちょっとこう....ねぇ......
まぁ、人の事だからいいけどさ。
「ここだ。入れ」
中に入れば黒い革張りのソファーが置いてあり、そこに一人の男が座っていた。
黒々とした髪をオールバックにした、ダークグレーのスーツを着た男であった。
鋭い眼差しが綱吉たちを捕える。
これは、なかなか。
この男には他の下っ端の男たちには見られなかった覚悟が見えた。
自分の力と地位を理解し、どうすれば自分が優位に立てるかわかる男のようだ。
だが、なぜこんなことをした?
このことがどれほどの意味を持つかわからないことはないだろうに.....
「ようこそいらっしゃいました。私は賀川と申します。うちの者が何か手荒なことはいたしませんでしたでしょうか」
「いえ、大丈夫ですよ」
「兄貴、なんでそんなやつに―――」
「黙れ、この方にそんな言葉を使っていいと思っているのか。さんざん言っただろうが。申し訳ありません。何分まだ小さな世界しか見ることの出来ない若輩者でして」
すぐに何か不都合が無かったどうかを聞いてくるところをみると大分と気にしてはいるようだが。
しかも部下の失態にはすぐさま謝罪をすることができる。
これは人の上に立ち、下の者の責任を負うことができる人間であるということだ。
周りをよく観察することができ、状況を把握することが出来て、尚且つ自分がどう動くべきかわかる人間は稀少だ。
「いえ、かまいませんよ」
本当に何も思わなかったので少し笑いながら首をすくめる。
自分が何をしているかわからない者の言葉に怒りを覚えるほど心が狭いわけではない。
まだ首も据わらないような赤ん坊に泣くなと叱るくらい無意味というものだ。
下っ端の言ったことより賀川のほうが気になる。
ここまで使えそうな人物を久々に見た。
どんな人物かしっかりと見ておこうと決心した時、奥へと続く扉が大きな音を立てて開いた。
「おいっ、早くこっちに連れてこいよ!」
大声で入ってきた男は、賀川より2、3年下のようだ。
きちっとスーツを着込んだ賀川と違い、だらしなくシャツの裾を出し、ズボンをずり下げてはいている。
「サッサと連れて来いって言っただろ!」
ギャンギャンとやかましく喚くさまは、小型犬がキャンキャン泣いている様子を思い出させる。
首謀はこれか。
このいかにもバカ息子で甘やかされて育ってきましたと云った風の男が考え出したのだろう。
この賀川という男がこれほど無謀なことをするとは思えない。
これで納得がいった。
だが、どうして賀川はこのような男につき従うのか。
これほどの男ならこの男に未来は期待できないとわかるだろうに。
早々に見限ると思うが......
「拾ってやった恩を忘れたのか!」
そういうことか。
大方この男の親が賀川を拾ったのだろう。
拾ってもらった恩でこのような男についているのか。
「申し訳ありません。すぐにお連れいたしますので、今しばらくお待ちを。少し話がございますので」
「けっ、さっさとしやがれ!」
どかどかと入ってきたときと同じように、騒々しく帰って行った。
「お見苦しいものをお見せいたしました。申し訳ございません」
「いえ」
少し困ったように笑っておいた。
こういうときは笑っておくのが一番だ。
賀川が深々と頭を下げる。
この男は気に食わない上司のことにでも頭を下げることができるのか。
この世界に足を踏み入れているものはプライドが高い。
それだけの誇りを持っているからだ。
頭などなかなか下げられない。
その中で賀川は自分たちの非を認め主のために頭を下げることが出来るのだ。
ほんとにいいな。
交渉の時など獄寺のほかにこれほどの男がいたのならばどれほど楽であろうか。
獄寺は相手にキレてしまうことがあるので時々大変なことになる。
本気で、欲しい。
リアルに引き抜きにかかろうかななどと綱吉は考えていた。
「貴方をお呼びしたのは、今、入ってこられた長谷川祐治様です。一度どこかのパーティーでお見かけしたのだと言っておられました。見覚えはございませんか?」
「うーん。すみません、覚えていないです」
パーティーと言われても日本だけでも数え切れないほど出席している。
その内の一つでしかも相手がちらと見ただけであったならば覚えなどあるはずもなかった。
「そうでしょうね。祐治さまもしゃべったなどとは仰られなかったので、覚えていらっしゃらなくとも無理はありません」
「いいんですか?」
「はい、仕方ありませんから」
「そうですか」
結構簡単にあきらめるんだな。
後で何か言われないのだろうか。
「もう一つだけよろしいですか?」
「どうぞ。俺の答えられることなら」
「――――このハンカチを、覚えてはいらっしゃいませんか?」
そう言って賀川がとりだしたのはきちんとアイロンが掛けられたうすい青色のハンカチ。
特別高級そうでもなく、普通にどこででも買えるような代物だろう。
「これは貴方が下さったものです」
「俺が?」
「はい」
賀川が柔らかな笑みを浮かべながら話し始める。
「7年前のことです。当時私は21でした。チンピラのまねごとのようなものをしていて、悪に染まりきることも出来ず宙ぶらりんの状態でした。ある日、昔私に喧嘩で負けてその憂さ晴らしに大人数を連れてきた奴がいました。一人ひとりは弱かったのですが如何せん人数が多い。勝には勝ちましたが体はぼろぼろで、今にも倒れそうな状態でした。公園で身を休めていると一人の少年が私にハンカチを差し出してくれたのです。誰一人近づこうとしなかったのに、その少年だけは怖がりもせずに普通に傷の手当てをしてくれました。手慣れた様子で手当てをしていく少年にどうして助けたのだと聞けば、貴方がここにいたからだと答えました。自分の目に入った人物がボロボロの状態だったから手当てをしただけだ、とそう言いました。さも当たり前のように。その時の笑顔がまだ目に焼き付いて離れないのです。彼はふわふわと撥ねる金茶の髪に柔らかい光を灯した少年でした。並盛中の制服を着ていました。少し調べると少年の名は、沢田綱吉という名前でした。
覚えていらっしゃらないかもしれませんが......
貴方です。ボンゴレ10代目、沢田綱吉様」
苦笑しながら照れ臭そうに笑うその顔に記憶が呼び戻される。
この顔を俺は知っている。
それは中学2年の秋、冬が始まりそうな冷たい風が肌をなでる日のこと。
この日は獄寺も山本も別々の用事があり一緒に帰らなかった。
なんとなく寄り道をしていれば公園に着いた。
ふとベンチを見ればグダーともたれかかっている若い男がいるではないか。
怪我をしているらしくときどき痛みに顔を歪めている。
何も考えずにハンカチを手渡した。
こちらを見た男は最初驚いた顔をしていたが、その後照れ臭そうにハンカチを受け取ったその顔に重なる。
「あっ、ああ――――!!」
指を差して叫ぶ。
思い出した。あのチンピラにしては素直にハンカチを受けとってくれた人だ。
怪我をした悪そうな人ほど好意を受け取ってくれる人は少ない。
なのにあの人はありがとう、と笑って受けっとくれた。
どうして助けたのかと尋ねて、そこにいたからだと答えれば一瞬キョトンとしそれから大きく笑った。
そして笑いが収まるともう一度ありがとうと言った。
そうかあの人か。
当時はいい人だな位にしか思っていなかったのだが今思えばあの頃から光る眼をしていたと思いだされる。
「思い出していただけましたか?」
「ええ、貴方だったんですね。全然気づかなかった」
「はい。その後、ここの先代に拾っていただきました。貴方と出会って変われたのです。押しつけがましいと思われるかもしれませんが、これだけは言いたかった。貴方の心からの言葉に、私は救われたのです」
賀川はイスから立ち上がると深々と頭を下げた。
「ありがとうございます」
こんなに感謝されるようなことをした覚えはないが、自分の言葉で救われたのだという彼がとても輝いて見えた。
自分の行動を受け止めて自らの糧としてくれた。
純粋にうれしかった。
「いえ、俺は自分が思ったことを行動に移しただけですから。でもそれがあなたのためになったというならばとてもうれしいです」
照れ臭そうに笑っている賀川に綱吉が笑いかける。
暖かな柔らかい空気が辺りを包みこんだ。
「それで、この後のことですが......」
急に真剣な顔になったと思うと先ほどの祐治とやらの話になった。
「祐治さまは貴方が何者なのかきちんと理解しておられません。話をなされば不快になられるかもしれません。このままお帰りになられたほうがよろしいかと」
「えっ?」
てっきり会ってくれというものだとばかり思っていたので予想外な賀川の言葉に変な声を出してしまった。
「でも、そんなことをしたら賀川さんに迷惑がかかるんじゃないですか?もうここにいるとわかってしまっているんだし」
「迷惑だなんて。貴方をこちらにお呼びしたのはあくまでもこちらの都合、綱吉さまの不快になるようなことはしたくありません」
苦笑いを浮かべながら話す賀川は、あの男があまり賢くないことなど分かり切っているのだろう。
その後自分がどんな立場になるか分からないのに、相手のことを考えて最善の方法を取ろうとする。
「でも――――」
バンっと音がして先ほどと同じように奥の扉が開く。
怒りで顔を真っ赤に染めた祐治が仁王立ちで立っていた。
「てめぇ、いい気になってんじゃねぇぞ!さっさと連れて来いってい言っただろうが!なのに帰れだと!?」
「祐治さま」
「親父に拾われて幹部になったからって調子こいてんじゃねぇぞ!」
「そんなことは......」
一人でべらべらとしゃべる男に不快感が募る。
被害妄想もいいところだ。
どうせ自分の父親が自分より賀川を贔屓しているように感じたのだろう。
いい加減うるさいし、後ろからの視線が痛いので声をかけようとしたら着物を着た初老の男性が入ってきた。
厳めしい顔をした頑固親父と言った風な男性であった。
「親父......」
「組長......」
「長谷川さん」
一度日本のパーティーに出たとき話したことがあった。
若造だからとなめてかかってくる輩と違いきちんと話が出来た人物であった。
この男性の子供がコレか.....
「お久しぶりですな。ボンゴレ10代目」
「ええ、3年ぶりぐらいでしょうか」
「ボンゴレ...?」
「祐治、お前はそんなことも知らずにこの方に話しかけておったのか。だからお前にはまだ渡せない」
小さく落胆のため息をつくと長谷川はこちらを向いて頭を下げる。
この人が何のためらいもなく非礼を詫びることが出来るから賀川はあの時のまま信念を曲げずに来れたのだ。
「申し訳ございません。息子がとんだご迷惑を」
「いえ、これと言って何かをされたわけではありませんから」
「ですが、他でもない貴方に迷惑をかけた。どうぞ私どもに出来ることでしたら何なりとおっしゃってください」
賀川さん下さい。
とは言えない。とっても言いたいが言えない。
「そんな――――」
長谷川の目線が綱吉の目を掠める。
悪戯っ子のような光が長谷川の目に灯っていた。
そういうことか。
ならばその思惑に乗ろう。こちらとしては得になるばかりなのだから。
まあ、好いように踊らされたと思えばそうだが、それを補うくらいはこちらに利益がある。
「では、一つ欲しいものがあります」
綱吉が乗ろうとしてくれたことがわかったのだろう。
わずかだがほっとした空気が長谷川から流れる。
「私が提供できるものならなんなりと」
「では――――」
銃を握っているように思えない綱吉の白く細い指がすっと賀川に向けられる。
「では、彼を頂けますか?」
「あいつを?しかしあいつはこの組でも中枢を辞なっておりましておいそれとは」
「おや、今あなたは俺の願いを叶えられることなら何でもかなえると言ったではないですか」
「ふう、仕方がありませんな。約束です。賀川を貴方に差し上げましょう」
「ふふふ、ありがとうございます」
「組長!」
「おめぇはこれからボンゴレ10代目のモンだ。うちの名を貶めぬよう気張ってやれ」
「..........」
鋭い賀川の目が長谷川を見つめる。
父親のような目をした長谷川の想いを悟ったのか賀川は何も言わなかった。
賀川は長谷川から目を離すとこちらを向いてしっかりと目を合わせてきた。
「.....未熟者ではありますが、これから宜しくお願い致します」
賀川が頭を下げる。
「......っおい!どういうことだ!かってに話進めるんじゃねぇ!」
今まで蚊帳の外だったバカ息子が話についていけなくなってついにキレた。
癇癪を起した子供のように喚き散らす。
さすがに鬱陶しくなって心の中でため息をついた。
まったく、うるさいなぁ。
せっかく賀川さんが手に入っていい気分だったのにぶち壊しじゃないか。
「まだまだ教育が足りないようで、気分を悪くされたでしょう」
「まぁ、慣れてますから」
こんな輩はどこにでもいるものだ。
いちいち気にしていたらきりがないくらいは会ってきた。
子どものような考えをしたままで体だけ大人になったような人間はいくらでもいる。
「そうだっ。この人も一緒に連れて行っていいですか?」
「は?」
「この祐治さんも連れて行きたいんですけど」
「それは、どういうことでしょう?」
「いえ、お困りのようですのでこちらで少々躾けようと思いまして」
「躾け、ですか」
「ええ、ダメですか?」
「いえいえ、こちらからは願ってもいないこと。ビシバシ扱いてやってください」
祐治は自分を挟みイイ笑顔で話しあう二人についていけないのか目を白黒させていた。
ほどなくして、黒に身を包んだ男たちが数人やってきた。
驚く間もなく祐治を気絶させ、担ぎあげてきたときと同じように風のように去って行った。
「では、いただいて行きましょう」
長谷川との談笑を楽しんでいた綱吉がソファから立ち上がる。
「ありがとうございました。また機会があればお会いしましょう」
「ええ、お元気で」
「貴方も。失礼します」
おおよそ裏に住んでいる者の言葉とは思えないような別れのあいさつをして綱吉は獄寺たちを連れて部屋を出て行った。
部屋には長谷川と賀川だけが残っている。
「......今まで、ありがとうございました」
深く頭を下げる。
固めてあった黒い髪が落ちてきている頭に手をのばす。
「.....しっかりやんな」
様々な想いをこめてくしゃりと髪を掻き混ぜる。
頭を上げた賀川の顔には決意が漲っていた。
何も言わず扉へと向かう。
最後に扉の前でもう一度深く頭を下げてから賀川は出て行った。
「おめぇのことは大事な大事な息子だと思っていたよ」
「死ぬんじゃねぇぞ。親より先に死ぬのは最大の親不孝モンだ」
「あの方の役に立ってこい。それが俺にとっての最大の親孝行ってもんだ」
扉に向かって話しかける。
ゆっくりと言い聞かせるように。
言葉の一つ一つが沁み渡っていく。
「もういいの?」
外で待っていた綱吉が賀川に話しかける。
「ええ、大丈夫です」
「......そう。ふっきれた顔してるね。前からだったけど今すっごく男前だよ」
「ありがとうございます」
少し赤くなった目を下げる。
期待と誇りと覚悟に彩られた瞳は超高温の炎のように熱い光をこぼしている。
本当にいいものを手に入れた。
これからもっともっと伸びるだろう。
「ボンゴレ10代目、沢田綱吉様。賀川義章、この命と誇り貴方様に捧げましょう」
「ああ、お前の命と誇り俺が背負おう」
薄汚い裏通りで交わされた厳格な誓い。
綱吉の守護者でさえ聞かされない二人だけのもの。
神聖な誓いは時間にすればほんのわずかだが賀川にとっては永遠のもの。
今この瞬間から自らの命絶えるその時までけして忘れることのなかった時間であった。
長谷川からの父親としての言葉と綱吉との誓いが賀川の人生の中心になった。
「さぁ、帰ろうか。俺たちの家へ」
Fin
あとがき
終わりました!!
というか、あっれーー??
いつの間にか同窓会じゃなくね?
何があった自分!!
なんかオリキャラでてきちゃったし......
すんません!!
でも楽しかったっす!!
またおまけとか書きたいと思います