題名


――すよ。........し...ま―――.....た。

浮上していく意識の中で声が聞こえた。苛立ちを滲ませ、不機嫌なのを隠そうともしないその声は覚醒していく意識の中で、よりはっきりと聞こえてきた。

「今すぐに?無理ですよ、急すぎる」

ちっと舌打ちが聞こえる。

「分かっています。......はい。それでは」

ピッと電子音がしたあと抑えられていた息を吐き出す音がした。

「ちあき.....」

寝起きで、まだはっきりしていないまま喋るとかすれた声がでた。

「稲葉。悪いな、起こしちまった」

声に気付いた千晶がそっと俺の頬を撫でて「悪いな」と言う。
小さく首を横に振ってすまなさそうな千晶を見つめた。

「....なんだったんだ?」

千晶は答えてくれず、煙草を取り出し火を付けた。
もう無意識でやっている動作なのだろうが、何度見ても目を奪われる。

「千晶?」

「......呼び出し」

「......なんの?」

ふーっと煙を吐き出す千晶の眉間には深いしわが刻まれている。

「生徒が酒飲んで騒ぎ起こしたらしい。少し、怪我もあったそうだ」

くそっ、と悪態をつく千晶は、随分と機嫌が悪い。

「なら、こんなとこでダラダラしてる暇ねぇじゃねぇか。早く用意しないと」

ベットから起き上がろうとしたら、手をつかまれ引き戻される。

「千晶!」

「まだいいじゃねぇか。こちとら久々の休日で、恋人との逢瀬だってのに」

やっと休みが重なって、今日は二人でどっか行こうと思ってたのに、とぶつぶつ呟く千晶。
そりゃぁこの頃忙しくて会っていなかったがこんな時に言っている場合ではない。
恋人、という言葉に恥ずかしさを覚えたが、すぐに切り替えて千晶のでこをぺしりと叩いてやる。

「馬鹿。緊急だから電話がかかってきたんだろ。早く用意しないと」

「..........」

「ほら、お前もわかってんだろ。さっさと起きろよ。先生だろ」

掴まれていた腕をはなしてベットから下りる。
キッチンへ行って朝食の用意をしなければ。きちんと食べていかなければ、後々つらいのは千晶だ。
あまり朝食は食べないという千晶にスープとサンドイッチを用意していると、着替えを終えた千晶がリビングに入ってきた。
きちんとオールバックにされた髪。千晶を見てさっきはああ言ったけど、つくづくこいつは先生に見えないなと思った。

「悪いな」

「いいよ。ほら、出来たぞ」

コーヒーを入れて朝食を出してやる。

「少しでもいいからちゃんと食べてけよ。後でつらくなるぞ」

「ん、さんきゅ」

ついでに自分も一緒に朝食を食べることにした。

「帰り、いつくらいになるんだ?」

「そこまで遅くはならない。でも夕方位まではかかると思う。親とかも呼び出さないといけないし、説教もしなけりゃならん」

「そか」

あっまた眉間にしわよってる。
手をのばして眉間によったしわをぐりぐりと揉んでやると、千晶は驚いた顔をした。

「しわ寄ってる。あと残っちまうぞ」

と言うと、揉んでいた手をつかまれて、千晶はテーブルを乗り出してキスしてきた。
ちゅっと軽い音をさせて、触れるだけのキスをした千晶はすぐに離れていった。
ニヤッと千晶が笑う。美形はそんな顔も絵になる。

「出来たダーリンを持って、俺は幸せだよ」

「ハニーが我儘なんでね」

軽口を言い合い、笑い合う。
少し機嫌が戻ったようだ。それでもまだまだ機嫌は悪そうだが......



「んじゃ、行ってくる」

「おう」

玄関まで見送ってやると、千晶は「新婚みたいだな」とうれしそうに笑った。
馬鹿なこと言うなと頭をはたいてやったが、それでも千晶はうれしそうだった。

「行ってらっしゃい」

千晶に近寄って、服の裾をつかんで背伸びをして、口づける。驚きに目を見開いた千晶がおかしかった。

いつだったか、お前からもキスしてほしいと言われた。
その時は、恥ずかしくってそんなこと出来ないと言ったけど、大変そうな千晶を見て何かしてやりたくて、喜んでくれるんじゃないかと思ったから。
すぐに離そうと思ったのに、後頭部を捕まえられて離れることができなかった。
深くなっていく口づけに、息が荒くなり目にうっすらと涙がたまる。
酸素が足りなくなってきたのか、頭がぼーっとしてきたところで唐突に唇が離れた。
千晶を見上げれば手で顔を覆っている。
どうしたのかと思っていると、急に抱きしめられた。

「あんま、可愛いことしてくれるなよ。それでなくても行きたくないのに、もっと行きたくなくなる」

耳元でささやかれる千晶の声は、脳を直接揺さぶられたかのような衝撃だった。かすれて、欲を滲ませた低い声。
俺は力の抜けそうになる足を踏ん張って、千晶の服をつかんでかろうじて立っている状態だった。

「ったく、そんな顔すんなよ。我慢できなくなるだろ」

「ばかやろっ、サッサと行きやがれ!」

はたこうとした手は、簡単に千晶に捕まる。

「はいはい。......行ってきます」

「......行ってらっしゃい」

目を閉じる千晶に殴ってやろうかなんて思ったけれど、やめておいた。
もう一度軽くキスをして送り出してやる。
とろけるような笑顔を見せて、千晶は上機嫌で学校へ向かっていった。



END cotinue

あとがき

稲葉君は千晶先生の家に泊っています
でも何もありません 笑
鈍感で天然な稲葉君に千晶先生は手が出せないのです←
頑張れ〜〜〜〜!!(え