君はこんなにも無自覚で


朝あんなにも降っていた雨が嘘のように晴れ渡っている。
濡れていたであろう屋上の給水塔も、暖かな日差しですでに乾いている。
ぽかぽかとしたコンクリートに寝転び、隣で子猫と戯れている教え子を横目で見やる。

びしょ濡れだったシャツも乾いていて、いつもの彼に戻っている。
その事に安堵する一方で、どこか惜しい気持ちがあった。

「それで、その子猫どうすることになったんだ?」

「田代たちが、里親見つけるの手伝ってくれるって言うから協力してもらっていい飼い主見つけたいと思う」

「そうか、よかったな」

「ああ」

嬉しそうに笑う彼は、いつもより幼く見える。
その笑顔がなんとも愛おしかった。

「そうだ」

さも、いま思いついたとばかりに声を上げ、稲葉に近づく。
子猫の喉を擽ってやりながら朝から考えていたことを話してやる。

「コイツの里親探しが終われば、いい子の稲葉くんにご褒美をやろう」

ご褒美だなんて、俺の舌もよく回るものだ。

「ご褒美?」

ほら、純粋な彼はまったく疑いもしない。
そんなに簡単に全部信じていたら危ないぞ、稲葉。
自分のことを棚に上げて心の中で説教してやる。

「そう、どっか連れてってやる。どこがいいか、考えとけよ?」

頭をくしゃりと掻き混ぜて、わざわざ耳元で彼が弱いと知っている己の声を、意識的に低くして囁いてやる。
案の定、顔中真っ赤に染めた彼は口をパクパクさせながら言葉にならない言葉をしゃべっている。

くくくっと笑い給水塔を下りていけば、後ろから千晶っ、と声がした。

「......どこでもいいんだなっ!?」

振り返らず、了承の意味でひらりと手を振ってそのまま階段を下りていく。

「約束だぞ!」という彼の声は、少しの恥ずかしさを含んでいるようだった。
頬を赤く染めた彼を見たかったけれど、今、振り返ることなどできない。

こんなに緩んだ顔を見せることなんて出来ないだろ....?

作戦が予想以上にうまくいって気分が上がる。
スキップしたい気持を抑えて、俺は階段を下りて行った。



END


あとがき

千→夕です
しかも夕士くんはモテモテです!
長谷君、詩人、画家、古本屋、陰陽師などなど
無意識にオトしていきます★
魔性ですから!←だまれ