題名


赤信号にイライラする。
早く、早くと急かす心。ともすれば、思いきりアクセルを踏んでしまいそうな右足をかろうじて止めていることが出来ているのは、事故を起こして、彼に心配をかけるわけにはいかないと理性がストップをかけているから。
やっと変わった信号に悪態をついて、帰路を急ぐ。
早く帰って、彼を見たい。見て、喋って、触れて。
心が彼を渇望している。
渇いた砂が水を求めるように。
心の中を彼で満たしたい。
彼の全てを感じたい。

苛立っていると無意識に煙草に手が伸びる。ふと灰皿に目をやると、あまり短くなっていない煙草が山積みになっていた。
くわえていた煙草をケースに戻す。いくらなんでも吸いすぎだ。これでは彼に怒られてしまう。
心配して怒っている姿を思い出すと自然と口に笑みが溢れた。すると今までいらついていたのが嘘のように、穏やかで暖かなものが心を満たした。
自分の変わりように自分で驚く。まさかここまでとは......
だが、それも悪くないと思っている辺り、随分と末期な気がする。

やっと見えてきた自分のマンション。待っていてくれている彼に心が踊る。
車を止めて、エレベーターを待っている時間さえも惜しいが、流石に15階までは階段では上れない。今すぐにでも駆け出しそうな足をなんとか押し留めて、エレベーターに乗り込む。
扉が開くと一目散にドアに走りチャイムを鳴らす。
ドアの奥から、パタパタとスリッパの音がしてガチャリとドアが開けられた。

「千晶、おか...っわぁ!」

言い終えないうちに引き寄せて抱きしめる。稲葉は太陽のような暖かな匂いがした。それを吸い込むと胸いっぱいに幸せが広がった。

「千晶!早く中入れよ!恥ずかしいだろ!」

誰かに見られたらどうすんだ!と言う稲葉。本当は見せつけてやりたいが、恥ずかしがり屋の彼はそれをよしとしない。
抱きしめたまま、中に入って玄関で思い切り抱きしめる。
顔中にキスの雨を降らせて、髪を梳く。存外柔らかな稲葉の髪はこの頃お気に入りだ。
右手で後頭部を押さえ逃げないように捕まえながら左手はそっとシャツの中に滑り込ませる。
キスでいっぱいいっぱいの稲葉は気づいていない。稲葉の肌はなめらかで吸いついてくるような手触りだ。
やっと気付いたのか不埒な動きをする左手を捕まえられる。
胸を叩かれて仕方がないので唇を離してやれば、荒い息を吐きながらうるんだ瞳でこちらを睨んでくる。

「何すんだ!」

怒っているが、全く怖くない。
先ほどのキスのせいで、赤く染まった頬。てらてらと光る唇。薄い涙の幕を張ってうるんでいる瞳。
どれをとっても煽っているようにしか見えない。
まだ学生のうちはやめておこうと思っていたのに、この調子では守れそうもない。

まだ少し怒っている彼をなだめるように抱きしめて、耳元で言う。

「ただいま」

「.......おかえり」

真っ赤に染まった耳が愛おしかった。
無意識に全身で煽ってくる可愛い生徒兼恋人にこれからもこんな我慢を続けるのかと思うと、先が思いやられる。

目下とりあえず今の問題は、おずおず抱きしめ返してくれている恋人がはんぱじゃないくらい可愛くて、理性の限界を試されていることである。



END

あとがき

いってらっしゃいの後の話です
稲葉君に会いたくてしょうがなかった千晶先生
またしても我慢!!

どうやらつゆりは攻めが鈍感な受けにもやもやしてでも手が出せないという状況が好きみたいです 笑